母と月

母は月を眺めるのが大好きだ。調子が良い日は夜になるとトイレの後、縁側に行き窓から空を覗き月が出ていれば興奮して私を呼び「月がきれいに出ているよ。見てごらん」と言うのだ。その時の母は子供みたいに月を見てはしゃぎ「月が見てごらん。二つも出てるよ」と嬉しそうに言う。もちろん月が二つある訳がないのだが母は目が悪くなっているのでぼやけて二つに見えるのだろう。私も近視なので肉眼で見ると二重にぼやけて見えるので特に否定せず「ほんとだ。二つ月が出て綺麗だね」と母に合わせるのだ。以前月は一つしかないと説明した事があるが今の母は理解してくれないので母に合わせる事に決めたのだ。この時の母はほんとうに嬉しそうでまるで子供みたいで可愛い。私まで嬉しくなってくる。母は九十歳を過ぎてからかなり認知も進んできており幻覚も見えるのか訳の分からない事を言っては私を困らせる事が増えてきて母の介護にストレスを感じるのだがこんな無邪気な母を見ると癒されて日頃のうっぷんが消えるのだ。母は折角家に居ても痛みの訴えが多いのでいつもこんな母だったらと思っている。私も元々月が大好きで特に満月には不思議な魅力を感じている。最近はゆっくり月を眺める事もなかったなぁと思い母と月をゆっくり見る時間を大切にしたいと思っている。

                               つづく