母、八十九歳になる

二〇十九年、三月二十七日、母八十九歳の誕生日を無事に迎える事ができた。その頃には入院前のように夜、一人でポータブルトイレを使用できるようになっていた。私は一緒の部屋で寝ているとどうしても寝不足になるのでその頃から離れの部屋で寝るようにして夜間時々様子を見に行くようにしていた。段々と入院前の生活が出来るようになり私の心にも余裕が持てるようになってきた。今まで母の誕生日は家で過ごしていたが施設でお祝いをして頂けるので今回はデーサービスを利用した。デーサービスから帰って来た母は施設の担当の方からアイボリーの長めのカーディガンと白地に花柄のスカーフをプレゼントして頂いて喜んでいた。母の担当の方は二十代前半の若い方なのでさすが若いセンスのプレゼントだった。家では二人だけでささやかに誕生日のお祝いをした。母とこうやって家で誕生日のお祝いが出来るのはいつまでだろうか?いつまでも母の念願通り最後まで家での生活が出来ます様にと心の中で私は祈っていた。「次の目標は九十歳だね」と私が言うと「お父ちゃんが九十一歳迄生きたんじゃけぇそれまで生きんにゃいけんよ」と負けず嫌いの母は笑って言うのだった。

                             つづく